睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が停止(無呼吸)あるいは呼吸の量が少なくなる病気です。この病気は日中の活動に深刻な影響を及ぼし、日中の眠気により居眠り運転による事故、作業能率の低下が生じます。また、脳卒中、心筋梗塞などによる死亡の危険性が高まります。睡眠時無呼吸症候群の人の割合(有病率)は男性の5%前後、女性の2~3%前後と報告されていますが、高齢者では有病率がさらに高くなることが報告されています。有病率が高いにも関わらず、患者さん本人が気づくことはまれなため、多くの人は治療されていません。
しかし、体型や持病に限らず誰でも睡眠時無呼吸症候群である可能性があります。
また、自宅での簡易検査、入院による精密検査も可能ですのでお困りの際は受診して気軽に相談下さい。
現在は治療することができます。
1980年頃までは、治療することができませんでした。日本では1990年頃から少しずつ治療できる施設が増えてきました。現在では、専門とする医師、施設が増えています。薬では治すことができませんが、主な有効な治療法としてCPAP(シーパップ)療法があります。
【図1-1】CPAP(シーパップ)を使用して眠っているところ
https://659naoso.com/medical/treatment/cpapより引用
![]() |
無治療時:鼻腔から気管内は陰圧となる。 |
---|---|
![]() |
CPAP非使用時:陰圧のため、咽頭部分の気道がつぶれて塞がる。 |
![]() |
CPAP使用時:咽頭部分の気道が陽圧となり、気道が確保されて、楽に呼吸できる。 |
【図1-2】CPAP(シーパップ)の作用メカニズム
より引用、改変
マウスピース【図2】を装着して眠ります。下顎(あご)を少し前方に移動させ、狭くなった気道を拡げます。軽症の睡眠時無呼吸には効果がありますが、中等症以上では効果が限定的です。
【図2】マウスピース
【図3】口蓋垂口蓋咽頭形成術 (UPPP)
レーザーによる手術も行われますが、以下の理由により、当院ではこの治療法をお勧めしておりません。
気道が閉塞する(抵抗が高くなる)部位は咽頭だけに限らず、咽頭だけを拡大しても、他の部位の閉塞が改善せずに、睡眠時無呼吸症候群が改善しない事もしばしばあります。
また、咽頭の口蓋垂(のどちんこ)およびその周囲は嚥下(物を飲み込むこと)の際に重要な役割を果たしているので、お茶などの水分を飲み込む際に、うまく呑み込めずに、鼻から出てきてしまうこともあります。
CPAP(シーパップ)が、死亡率を低下させ、脳卒中や心筋梗塞などの心血管発作による死亡と心血管発作による後遺症を減らすことが報告されています。
【図4】睡眠時無呼吸症候群の経過―心血管発作による累積死亡
重症の睡眠時無呼吸の患者さんは12年間の経過観察中に有意な死亡率の上昇が認められた。CPAP(シーパップ)によるSAS治療例の死亡率は健常者と同様なレベルまで低下した。
【図5】睡眠時無呼吸症候群の経過―心血管発作の累積発生率
重症の睡眠時無呼吸の患者さんは12年間の経過観察中に有意な心血管発作の発生率の上昇が認められた。脳血管障害の場合には、半身麻痺、失語症などの後遺症、心臓の血管の場合には、心機能の低下により、心不全などの後遺症が出現する。CPAP(シーパップ)によるSAS治療例の発生率は健常者と同様のレベルまで低下した。
阿部 直(常勤:名誉院長)
日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医
前東海大学医学部内科学系呼吸器内科学教授
元北里大学医学部教授
2014年藍綬褒章受章